夕暮れ日記

引きこもり主婦です。メンタル弱めです。やらなきゃいけないことはたくさんあるのに、何もできないまま気づけば夕暮れ。そんな日々の徒然日記。(コメント欄は開けたり閉じたりします<(_ _)>)

専業主婦。
やらなきゃいけない事は山盛り。なのに気つけば夕暮れ。
18才の長男は発達障害グレーゾーン。やり場のない思いをボチボチ綴っていきます。

30年の空白

夕飯を終えて、食器を流しに運んだ時、突然携帯がなった。

見知らぬ番号。

間違い電話だと思った。


5コール待ってみた。


止む気配なし。

「はい」

無愛想に出てみた


「私よ、わかる?」

「えっ」

「◯◯高校の同級生の石川!(仮名)」

「あ、イシコ?」


酒灼けなのか少し声がかすれてハスキーになっているが、紛れもなく小中高と一緒だった幼なじみのイシコの声。

電話で話すのは何年ぶりだろう? 30年ちかく経つのか…。

なぜ、私の携帯番号を知っているのか。30年前はまだ携帯なんてなかった。


「なんでかわからないんだけど、急に電話番号思い出して、すごい気になって思いきってかけてみたら「夕暮れ」のお母さんが出てさ、今こっち戻ってきてるって言うし、携帯教えてくれたからさ、かけてみた(笑)」


酔っ払ってる。でなきゃ 普通このテンションでかけてこない。


「びっくりした! 懐かしいね〜」と私。


本当に思いがけない電話だった。最後に会ったのはいつだか思い出せないが、酒を飲んでいたので多分20才くらいだろうか。


イシコは、まだ独身だという。

高校卒業後、地元の都会の短大へ進み、その後地元の準ミスに選ばれた。

博覧会のコンパニオンやモデルなどをしていたところまでは知っている。


甲子園球児のファンで、この間世間をお騒がせした元野球選手とも飲みに行った事があると自慢気に言っていた。

そのイシコだ。

CA希望だったが英会話で落とされ不採用になったが、その美貌でグランドホステスの内定をもらったのに結局辞退したイシコ。

銀行員や秘書の仕事も内定もらったのに蹴った。次々とイシコの記憶が蘇る。


「いつ戻ったん?」

「17年位前」

そして、また自分がなぜ電話をかけたのか、を延々語り始める。3回くらいリプレイされた。

「酔ってるよね?」

「うん、毎日飲まない日はないくらい飲んでるもん」

少しろれつも回ってない。声が大きく、陽気だ。

相当飲んでるな。時計を見たら8時間半だった。

この時間にこんなにできあがってるなんて、いったい何時から飲んでいるのか。


私はこのイシコから酒の飲み方を教わった。

福岡の中洲や、東京の新宿、六本木、全日空ホテルのラウンジ。

初めて行ったショーパブもショットバーもイシコと一緒だった。

懐かしいけれど、甘酸っぱい思い出が走馬灯のように蘇る。

私の昔を知っている、私にとって丸めて燃やしてしまいたい子ども時代も知っている。


私は暗くて可愛げがなかったので教師から嫌われていた。

イシコもまた、先生から目の敵にされていた。

きれいで明るく気前がいい、そのイシコが私より嫌われている。

私は積極的にイシコと遊んだ。

嫌われ者同士、言葉には出さなかったが、イシコも私と同じ気持ちだったのかもしれない。


イシコの両親はパチンコ店を経営していて、在日だった。

イシコのパスポートを見た時、初めて、なぜあれほどまでに教師から疎まれていたのかわかった。


「昔から呼んでるから旧姓のあだ名で呼んじゃうけどさ、今名字違うんでしょ」

母からはあまり詳しい話は聞いてないらしい。

「うん、今は◯◯」

「へぇ〜、子どもさんいるの? いくつ?」

家庭のことを聞くときはさすがにトーンがさがる。


美貌と経済力があるのに、配偶者を得られなかったイシコ。

いや、それゆえに高望みをし、本当の自分を受け入れてもらえる相手に気付けなかったのかもしれない。


イシコはGW明けに飲みに行こう、と誘ってきた。

私も快く承諾した。

「Cメール送るね。メルアド書いとくね。メールちょうだいね」

私は、そう言って電話を切った。


私はすぐCメールを送った。

しかし返事は来ない。


結局酔った勢いで電話しただけかもしれない。

メールはもう来ないかもしれない。