強烈な過去の体験 (完結編)
兄は、更正施設に約三年ほどいた。
そこは先生のお宅にホームステイをし、疑似家族を体験していきながら本来の性格を取り戻すという、本当に素晴らしい施設だった。
畑や家畜の世話、自然の中できっと身も心も解放されていったのだろう。
のちに兄は、退院後もしょっちゅう先生へ会いに行っていたし、先生に電話などもよくしていた。
父親のいない兄(私もだけど)は、きっとその先生を本当の父親のように感じていたのだろう。
兄は、施設を出たあと住み込みの板前修業をした。(さらに遠方で)
私は、兄が一生帰ってこなければいいと思っていたので、退院→帰宅 でないことにホッとした。
兄は「将来は板前になって自分の店をもつ」などと施設の人に言っていたようだけど、兄が料理を作るところを見たこともなく、店をきりもりする技量もない、とわかっていた。
高校に行ったり、資格をとったりするのが嫌でまた逃げている、と思った。
案の定、板前修業は一年ほどで辞め、ついに家に戻ってきた。
戻ってきた時 兄は18才だった。
職業訓練校へ一年ほど通い、小さな自動車整備工場に就職した。
それも長続きはしなかった。
それからは職を転々とする。
半年くらいで、すぐやめてしまう。
ようやく落ち着いたのは30才手前くらいか。
母のコネで。
ようやくそこで落ち着いた。
そして今も同じ会社に勤めている。
今は結婚もし、子どもも出来た。
だけど夫婦仲は悪い。
私は、母が死んだら兄との縁はきれると思っている。
必要にせまられて、法事や母のことで仕方なく兄と会うが、やはり今でも緊張する。全身の筋肉がこわばって、ぎこちなくなるのがわかる。
条件反射なのか、兄の顔を見ると、暴力をふるわれていた恐怖が甦る。
きょうだい、という感覚はまったくない。
パラレルワールドというものがあって、もし母が兄を殺していた世界があったとしたら。
私は、いったいどれだけ壮絶だっただろう、と思う。
多分 離婚した父の方へ引き取られる。そこでは殺人犯の娘として白い目で見られ、父の再婚相手と不仲で悩む。異母兄弟を妬み非行に走っていたかもしれない。
落ちるところまで落ちている可能性もある。
そう考えると、今の人生はそれほど悪くないとも思える。
おわり
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